物納手続について ―平成18年改正を踏まえて―
(この内容は、当事務所のお客様に対するご説明資料をベースにしています)
1.はじめに
平成18年度の税制改正によって、それまで手続的に不明確な点が多く、現場での裁量に多くを任されていた物納手続がある程度明確化されました。その反面、税理士等のテクニックで裁量の範囲を逆手にとって、納税者有利の結論を導き出すような方法がかなりの部分で使えなくなってしまいました。
この文書においては、改正後の物納制度についての留意点を解説するとともに、相続発生前後に採るべき対策の説明を行います。
2.改正の内容
平成18年度の税制改正によって、物納制度について変更された点の主なものは以下の通りです。
1)物納不適格財産の範囲を明確化
2)物納手続や審査期間等を明確化
3)延納から物納への変更を可能とした
以下、これらを簡単に説明します。
1)物納不適格財産の範囲を明確化
従来、物納できない財産については、相続税法上基本的な事項が簡単に定められているだけであり、実務上は「相続税法基本通達」や「物納等不動産事務取扱要領」に従って物納手続の執行が行われていました。これに対して、平成18年度の税制改正はこれらを明確化しました。
具体的には、「物納に適さない財産」について
・ 物納不適格財産(物納できない財産)
・ 物納劣後財産(他に物納可能な財産があるときは物納できない財産)
の2つに分類し、これらそれぞれについて明確な定義と取り扱いを定めています。
2)物納手続や審査期間等を明確化
従来、相続税法においては物納の手続に必要となる申請書、または物納申請後の審査期間について明文の規定がありませんでした。このため、審査担当者をはじめとする人的リソースの欠乏なども影響して審査に長期間を要したり、必要な書類をそろえるために何度も提出をしなおすといった不都合が発生していました。
平成18年度の税制改正においては、これらが相当な範囲で明確化されました。まず物納申請時に提出すべき書類が明定され、その記載不備、未提出の場合の補正提出期限についても明確に定められました。また、物納財産に条件未達など不備があった場合の補完についても期限が明定されています。
これに対して、物納後審査に要する期間についても明確に法定されました。具体的には、物納申請の許否を物納申請期限から3か月以内に行うこと等です。
このように期限が明確化されたことは歓迎すべきことですが、その反面、期限に対して遅延した場合にも明確な処分があることを忘れてはいけません。たとえば、書類の補正について20日という期限内に提出がなかった場合、物納申請を取り下げたとみなされる場合などは十分に注意すべきです。
最後に、物納申請時に「延納によっても金銭で納付することが困難な金額」として計算される物納許可限度額の計算方法が明確に示されました。平成18年の税制改正前は、この計算方法が明定されておりませんでしたが、改正後その計算式が明確に法定されました。また、改正前においては物納許可限度額を超えた物納は原則として認められておらず、当局の裁量の範囲が大きかったのですが、改正後は他に適当な財産がなく、性質や計上から分割が困難な場合などやむを得ない事情があると認められる時は、物納許可限度額を超える物納が認められることとなっています。
3)特定物納制度(延納から物納への変更)
従来から、物納は「延納によっても納付ができない」場合を想定していますので、物納を取り下げて延納することはできても、延納から物納への変更はできないこととされていました。
平成18年度の税制改正においては、以下の条件を満たすことを前提に、延納から物納への変更が認められることになりました。
・延納を継続することが困難な金銭の範囲内であること
・物納適格財産であること
・法定納期限から10年以内であること
3.物納業務の実際
以下、平成18年度税制改正後の物納業務について、実際にどのような手続が行われるかをご説明します。
1)物納業務の流れ
相続発生から納税額の確定、物納申請から収納の可否に至る手続は、右のフローチャートの通り行われます。
次に、物納により納付する場合に注意すべき点について、下記に説明します。
・選定された物納財産が法令の要件を満たすこと
(不適格財産や劣後財産ではないこと)
・物納許可限度額の範囲内であること
・補完通知書への対応と延長届出
2)物納財産の選定
2.1)にてご説明しました通り、物納財産は「物納不適格財産(物納できない財産)」や「物納劣後財産(他に物納可能な財産があるときは物納できない財産)」でないことが必要です。不適格財産としては、抵当権の目的となっている不動産や、境界の明らかでない不動産、隣地所有者との訴訟等となっている不動産など、劣後財産としては地上権が設定されている土地や、違法建築物やその立地する敷地などがこれに当たります。
これらの条件は明確に示されていますので、物納を予定している財産で不適格財産や劣後財産に該当する可能性がある場合は、これらの該当要件を排除しておく必要があります。
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3)物納許可限度額の計算
平成18年の改正後、物納の許可限度額は以下の通りの計算式で算定されることとなりました。
許可限度額 = A − (B × 最長延納期間 − C) + D
A:延納許可限度額
B:経済的年間収入金額
−年間生活費−事業継続に必要な運転資金
C:3か月の生活費+事業継続のため当面必要な運転資金
D:臨時的収入−臨時的支出
延納可能限度額は、納付すべき相続税額からその時点で当該申請者が即時納付に利用可能な財産を控除した金額であり、臨時的な収支は考慮しません。
上記より、仮に相続人が相続前から金融資産を多額に保有している場合、金融資産を全く所有していなくても、物納はおろか延納さえ大半が認められない恐れもあります。
このため、物納予定財産を相続する可能性のある相続人が金融資産を保有している場合には、これを即時換価が困難な財産に組み替える必要があります。
以 上
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