建前と本音の相続税/会計・税務・相続・不正調査の塩尻公認会計士事務所



はじめに

相続、相続税…この言葉を誰もが知っている。亡くなった親からもらう財産にかかる税金。家屋敷を売り払ってでも高い税金を払わなければならない。近所の資産家が亡くなった後、子供やその嫁婿親戚、二号さんの子供までを巻き込んで血みどろの争いをしているらしい。マルサが入って数億円の財産隠しが見つかり、隠し財産と同じくらいの税金を取られてしまった。等々、大抵がきな臭い話題となるのも事実であるから、この言葉は自然と世間の耳目を集めてしまう。

しかし、税理士等の専門家以外でこの税金について詳しく理解している人はどれくらいいるだろうか。いや、われわれ専門家でも「相続税に自信がある」という者は事実それほど多くないのである。誤解のないように付け加えるが、税理士という看板を掲げている以上、ほとんどの者は依頼された手続を「適法に」こなし、申告書を仕上げることが出来る。これはまずもって間違いない。なぜなら正しく税金の計算をして、期限までに申告書を提出するために必要なことはただ一つ、税法を中心とした関連法令を知っていることだからである。確かにこのことを行なうだけでも相当複雑な法規、通達1やその他関連法令を知らなければならないが、難しい税理士試験を課しているのもそのためであるから当然の話ではある。

では、そんな専門家をして「自信がない」と言わしめる本当の理由は一体何なのであろうか。

これは相続税の世界に裏表、言い換えれば建前と本音の部分があるからに他ならない。建前とは、もちろん法令等明確に規定された領域である。条文を読めば本来誰にとっても理解できる部分といえる。これに対して本音の部分とは、俗に言う「法律の行間」部分である。前述の通り、建前の部分だけでも適法な申告書を作成することが出来る。しかし現実には、この本音の部分にこそ大きな節税余地があるのである。もちろん、法人税や所得税を始め、地方税やその他諸税全てにおいても建前と本音はある。しかし相続税の場合、その格差は非常に大きく、広範囲に及んでいる。またその効果は、一度に発生する税額が多額であるという相続税の性格を反映して驚くほど大きい。時として致命的な程に納税者の税負担が増える可能性がある。もちろんその責任の一端が税理士にある場合も多い。結局このことが、専門家をして「自信がある」と言わしめることの出来ない原因となっているのであろう。

ならば、この節税対策を出来るだけたくさん暗記していれば優秀な税理士と言えるのであろうか。この問いに対しては「真であり、偽である」という答えがふさわしい。この世には一冊の本に記述できないほどの節税対策が存在する。これらを余すところなく注ぎ込めば、その場限りにおいては少ない税額の申告書が作れるであろう。この意味でほとんどの場合には真であると言える。しかし、「なぜ」そうなるかという部分、すなわち本質を知らなければ、申告書の直接的な提出先である税務署を納得させるには不十分である。詳しくは本文に譲るが、いわゆる「生兵法」の節税対策を盲目的に使うくらいなら、教科書通りの申告をしたほうが結果として丸く収まる場合が多いと言ってもいい。 今回は、このような相続税の世界に内在する「本音」の話をいくつか取り上げて説明する。紙面の制限もあるため入門書にあるような話は意識的に省略し、あまり世間に知られていない項目に焦点を絞ってご紹介していきたい。

この連載を通じて、税理士たちが普段どんな事で頭を悩ませているのか、わずかなりとも感じていただけると幸いである。

今後の連載は、上に挙げたような構成をとる予定である。但し長期間にわたるため、その間に興味深い判例や事件が発生した場合には予定を変更して取り上げる場合がある。

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