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―「金融商品会計に関する実務指針」の解説―
0.はじめに
新金融商品会計基準は、いわゆる「会計ビッグバン」の一環としてとらえられています。このため、何か会計基準が180度変わってしまうような印象を持っている方も多いようです。
確かに、平成12年1月31日に公表された「金融商品会計に関する実務指針」や「同結論の背景」においても詳細かつ大量な記述があり、そのボリュームだけで圧倒されてしまったという方もいらっしゃいます。
今回のコラムは、そのような疑問をお持ちであった金融関係者の方を対象に、
- 新しい会計基準とは何か
- 「実務指針」はどのような構成となっているか
- 会計基準を構成する各々の項目の概説
等について簡単に説明するという研修会でまとめた資料をベースにしています。
時間の制限、また私の研究不足により未完成の部分も多くございます。ご質問、ご指摘等ございましたら事務所までメールにてお知らせ頂きますと幸いです。
1.新金融商品会計と関連法令等一覧
金融商品会計について、現時点で公表のある主なものは以下の通りです。
企業会計審議会
- 金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書(11.1.22)
- 金融商品に係る会計基準 同注解(11.1.22)
会計制度委員会
- 委員会報告第14号 金融商品会計に関する実務指針 同結論の背景(中間報告 12.1.31)
業種別監査委員会
- 委員会報告第15号 銀行業における金融商品会計基準適用に関する当面の会計上及び監査上の取扱い (12.2.15)
大蔵省
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(財務諸表規則)(改正 12.3.13)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(連結財務諸表規則)(改正 12.3.13)
- 中間財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(中間財務諸表規則)(改正 12.3.13)
- 中間連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(中間連結財務諸表規則)(改正 12.3.13)
- 平成12年度税制改正の大綱(H11.12.19)
- 法人税法の一部を改正する法律(成立 H12.3.24/施行 H12.4.1)
2.実務指針の構成と要点−会計分野
<実務指針全体の構成−本文と「結論の背景」>
実務指針は大きく分けて以下の6部分から成りますが、それぞれ本文と「結論の背景」の組み合わせになっています。
このうち、本文は主に会計基準に従った実務を明確に示すことを目的としていますが、「結論の背景」はそのような実務を採用するに至った理論的背景を詳細に説明しています。
また、具体的な会計処理実務を例示するため、いくつか例を設けています。
- 範囲 → 新会計基準が対象とする金融商品(資産及び負債)について
- 発生及び消滅 → どのような場合に金融商品を記帳・消去するか
- 評価及び会計処理 → 保有中の金融商品の時価評価と会計処理について
- ヘッジ会計 → ヘッジ取引の効果をどのように取り扱うか
- 複合金融商品会計 → 組込デリバティブ取引等の取扱について
- 適用時期 → 新会計基準の適用開始時期について
<金融商品の範囲−「受動的開示から能動的、積極的開示へ」>
金融商品とは、金融資産、金融負債、デリバティブ取引などさまざまな契約概念を総称したものです。
金融資産は、現金預金、金銭債権(営業債権や貸付金)、有価証券、デリバティブ取引の結果発生した実債権等を含みます。また、金融債務は金銭債務(営業債務や借入金)、デリバティブ取引の結果発生した実債務等を含んでいます。但し、退職給付債務やリース取引等、他の会計基準が取り扱うべき項目は金融商品会計の対象外となっています。
範囲の項目において従来の会計基準との最大の相違は、対象とする金融商品を明確に規定したところであるといえます。従来の会計基準はこの点について明確な取扱が無く、直接的に財務的な影響のある取引を受動的に会計上の資産及び負債として取り扱っていました。しかしこのようなアプローチを取った場合、デリバティブ等のように資金移動はなくとも大きな財務的リスクの発生する取引には対応できません。これまでも注記などによって開示する試みは続けられてきましたが、金融取引の複雑化、多様化により直接的な決算書への開示が必要となってきたのです。
今回の新会計基準は、このような要請を踏まえて、金融資産及び負債の範囲は明確に規定しています。しかし、実務指針「結論の背景」において概念的な説明を行うことで従来より広い範囲をカバーし、より能動的、積極的な開示を可能としています。
<発生及び消滅の認識−受渡日から約定日へ>
[発生]
有価証券の売買やデリバティブ等の取引実務上、通常約定日には既に価格変動リスク等の関係が契約当事者間で異動しています。しかし、従来の受渡基準を適用した場合、約定日と受渡日が異なる場合の価格変動リスク等が本来そのリスクを受けるべき側の会計処理に反映されません。
このため、新会計基準は「約定日に当該売買契約それ自体を認識する」という概念を新たに導入しました。すなわち、約定日と受渡日(=決済日)が異なる場合、約定日に認識すべき契約は先渡(先物)契約であるととらえているのです。先渡契約は一種のデリバティブ取引ですから、これについてもデリバティブ取引としての処理が必要です。
しかし、約定日から受渡日までの期間が「通常の期間」を超えない場合、その期間が短いものとしてデリバティブとしての会計処理は行わないことになりました。この結果、有価証券などについては約定日基準が原則とされたのです。なお、有価証券の売買については、保有目的区分毎に修正受渡日基準によることも認められています。修正受渡日基準とは、記帳を受渡日基準で行い、それに加えて買手側が約定日から受渡日までの時価変動のみを、売手側が売却損益のみをそれぞれ約定日に認識する方法です。
もちろん、約定日から受渡日までの期間が「通常の期間」を超える取引の場合には、原則どおり先渡契約として取り扱うことが求められています。この際、現物と先渡契約はそれぞれ別個の金融商品として扱います。
なお、通常の物品売買における金融資産の発生については、従来どおり受渡基準が適用されます。従って売上の計上基準を約定基準とすることはできません。
[消滅]
金融資産を消滅させる場合の基本的な考え方は、以下の二つです。
- 財務構成要素アプローチ
金融資産を構成する財務構成要素に対する支配が他に移転した場合に当該移転した財務構成要素の消滅を認識し、留保される財務構成要素の資産計上を存続する方法です。
- リスク・経済価値アプローチ
金融資産のリスクと経済価値のほとんど全てが他に移転した場合に当該金融資産の消滅を認識する方法です。
今回の会計基準は、上記のうち財務構成要素アプローチを採用しています。
金融負債は、以下のいずれかの場合に消滅します。
・
当該金融負債の契約上の義務を履行したとき
・ 契約上の義務が消滅したとき
・
契約上の第一次債務者からの地位から免責されたとき
例えば、デット・アサンプション取引の場合、原債務者が契約上の第一次債務者の地位から免責されませんので、消滅を認識することは出来ません(一定の条件を満たせば可能)。
その他の金融資産、負債に関する発生及び消滅の個別例については、今回は省略します。
<金融商品の評価及び会計処理−時価対象の大幅拡大>
今回の会計基準において、変化の影響が最も大きい概念が「評価」です。評価とは、言い換えれば資産金額の算定方法のことです。
従来、企業会計は「保守主義」と「実現主義」の原則に従ってきました。すなわち、損失は早期に認識する一方(低価法、引当金等)、利益については確実に実現したものだけを計上する(実現主義)ことを要求していたのです。これは、商法等が重要視する「債権者保護」という目的を達成するためには非常に有用な考え方でした。
しかし、企業を取り巻く利害関係が複雑化してきたため、このような保守主義の原則だけを重視すると、提供するべき情報としては不充分となってきます。従来、このような要請に対して、企業会計は「時価情報を補足的に注記する」という方法で保守主義とのバランスをとっていました
。
この結果、確かに情報量としては満足しうる項目が提供されることとなりました。しかし注記による開示方法はあくまで補足的な情報開示であり、利用者から見れば不便です。そこで、今回の会計基準においては、時価情報によって財務諸表の数値そのものを調整することとしたのです。
さて、金融商品会計基準は時価を「公正
な評価額」すなわち「@取引を実行するために必要な知識を持つA自発的な独立第三者の当事者が、B金融商品の売却等や取得のために受け取り、支払うと予想される現金の価額のC現在価値」であると定義しています。
このような定義によれば、算定の対象となる時価の概念は「時価の客観的合理的算定が可能なもの」となります。従来の会計基準が時価を「取引所等の相場のある時価のあるもの」である限定的に定義していたことと比較すると、非常に範囲が広がることとなります。
金融商品の評価について個別に詳しく説明すると膨大な量となりますので、今回個別の金融商品についての時価算定方法は以下簡単に箇条書きするにとどめます。
[有価証券の評価]
- 売買目的有価証券
時価評価+評価損益を当期の損益として認識
- 満期保有目的債券
額面と取得価格の差額(金利調整部分相当額−発行体の格下げ分など満期に償還されないリスク部分は除く)を償却原価法により処理
- その他有価証券(株式)
時価で評価し、
@損益の税効果控除後金額を全部資本の部に計上(全部資本直入法)が原則
A損だけを損益計上(部分資本直入法)も継続適用を条件に認められる
評価差額はその他有価証券評価差額金(財務諸表規則)、評価差額金(商法)等の科目で区分して記載(剰余金の部の次)、翌期首にて差額を振り戻す(洗替方式)
- その他有価証券(債券)
償却原価法+時価評価(全部資本直入法or部分資本直入法)
[債権の評価]
金融検査マニュアルなどを参考に作成されていますので、金融機関は既にほぼ新会計基準と同一以上のレベルで債権評価を実施していることになっております。一般事業会社においては金融機関レベルの債権管理は困難である場合が多いので、簡便な方法によることも認められております。
[その他の時価評価(省略)]
- 有価証券の未収配当金、利息
- 金銭の信託
- デリバティブ取引
- 現先
- 有価証券貸借
- ゴルフ会員権(取得原価+減損)
[減損]
時価が著しく下落(半分以下)した場合→帳簿価格を減額し、評価差額を当期の損失として認識します。これは従来から「強制評価減」として商法においても減額が認められてきた概念です。
<ヘッジ会計>
ヘッジ会計とは、ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を会計に反映させるための特殊な会計処理のことです。通常、ヘッジ取引は相場変動の相殺や、キャッシュフローの固定化を目的として実行されます。しかし従来の会計処理においては、このような効果が発生していても財務諸表に反映する方法がありませんでした。このようなヘッジ取引による効果を財務諸表上に表示するための特殊な会計処理方法がヘッジ会計であると言えます。
このヘッジ会計の会計処理方法には、繰延ヘッジと時価ヘッジがあります。これらの違いは以下の通りとなります。
- 繰延ヘッジ
時価評価されているヘッジ手段に係る損益または評価差額を、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで資産または負債として繰り延べる方法
- 時価ヘッジ
ヘッジ対象である資産または負債に係る相場変動等を損益に反映させることによって、その損益とヘッジ手段に係る損益とを同一の会計期間に認識する方法(時価ヘッジは、ヘッジ対象の時価評価が可能な場合にのみ採用可能)
世界的に見ると、繰延ヘッジを利用する会計処理は消滅の傾向にあるようですが、新会計基準は繰延ヘッジを原則、時価ヘッジを例外的な会計処理として定めています。
ところで、ヘッジ会計を適用するためには、ヘッジ取引開始時にヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが客観的に判断できなくてはなりません。新会計基準は、このリスク管理方針について明確な文書化を求めています。個別のヘッジ取引や会計処理方法、及びその有効性の判定については、時間の都合上省略します。
<複合金融商品会計(省略)>
転換社債の発行体における会計処理、組込デリバティブの会計処理
<適用時期等>
新しい金融商品会計基準の適用開始時期は、原則として平成12年4月1日以後開始事業年度です。但し、以下の点において例外措置が認められています。
- その他有価証券については、平成12年4月1日以後開始事業年度は帳簿価格と期末時価との差額について税効果を適用した場合の注記を行い、時価評価に基づく会計処理は平成13年4月1日以後開始事業年度から実施することができます。
- 金融商品の評価基準に関係しない金融資産及び金融負債の発生・消滅の認識、貸倒見積高の算定方法については、平成12年4月1日前に開始する事業年度から早期適用することが出来ます。
また、商法改正(商法等の一部を改正する法律 平成11年8月13日交付)が改正され、商法上にも時価評価の概念を追加しています。
- 金銭債権・社債・株式等について、市場価格がある場合には時価主義による評価を行うことが出来る(時価評価の容認)
- 配当可能利益の算定上は、時価主義により付した評価額が取得価格を上回る金額について、これを控除する(配当可能利益からの評価益の排除−繰延税金資産との相違)
3.税務(法人税)における影響
平成12年度の税制改正において、法人税法においても有価証券の評価方法が改正されました。この改正の要旨は以下の通りです。
- 法人が所有する有価証券は、その所有目的に応じて「売買目的有価証券」「満期保有目的等有価証券」「その他の有価証券」に区分する。区分の基準は会計とほぼ同一
- 売買目的有価証券は時価により評価する
- 満期所有目的有価証券とその他の有価証券は原価法により評価する(償却原価法を含む)
- 平成12年4月1日以後開始する事業年度から適用
この改正の結果、若干の違いはあっても、売買目的有価証券がほぼ会計と同じ基準により税務上時価評価を行うこととなります。これは部分的ではあっても、評価益に課税するというわが国税法上前代未聞の概念
が発生することを意味します。
他方、その他の有価証券については、会計上は評価損益を計上するものの、税務上は原価法による評価となり、税務と会計の乖離が発生することとなります。しかしこの場合、会計上の時価評価における会計処理方法が「資本注入法」であるため、通常は会計上計算された所得金額がそのまま税務上も利用できることになります。この場合、注意すべき点は以下の通りです。
- 会計と税務の資産評価金額が異なるため、会計上税効果を認識する必要があること(日本における税効果会計が「資産負債法」を採用したため)
- 部分資本注入法においては、損益に計上した評価損金額が税務上自己否認すべき対象となること
なお、今回の改正により、有価証券の評価方法については選択の余地がなくなりますので、低価法を採用している場合でも変更の届出は不要となります。
4.企業経営に与える影響
今回の法改正の背景には,金融技術の著しい進歩に伴い新たな金融商品が続々と登場し,従来の取得原価主義に基づく会計制度には限界が出てきたという事情があります。具体的には、企業経営において以下のような新会計基準による影響が予想できます。
- より利用価値の高い会計情報の開示
範囲、認識、消滅、評価それぞれの基準がより厳格に適用されることにより、金融商品全般に係る財務的リスクが財務諸表へ正確に示すことができます。
- 含み益依存経営や含み損隠しとの決別
財務的リスクが直接開示されることにより、内部的に把握しているリスクがほぼそのまま開示されることとなります。このため従来の含み益依存経営や含み損隠しが難しくなります。その反面、従来から財務リスクを的確に把握し、コントロールしてきた企業にとっては、管理会計と企業会計の一本化による経営意思決定の明確化が期待できます
。
- 従来の会計における損益認識時期のずれを利用した利益操作の余地縮小
会計処理の実務が明確に示され、かつ選択の余地が少なくなったことにより、損益の認識時期を早めたり、繰り延べたりといった調節の余地も少なくなります。
- 基準の厳格な適用と罰則的規定の存在
例えば、満期所有目的の債券の償還期限前の売却、満期保有目的債券外への振替があった場合、満期所有目的の債券全てをその他の有価証券へ振替え、満期所有目的の債券への計上を2年間制限することとなります。
形式的な時価評価方法に対する議論も大切ですが、今回の新会計基準への対応を考える場合にはそれだけでは不充分であると私は考えます。具体的には、企業内部におけるリスク管理の徹底と、その結果としての実態開示という本質に目を向ける必要があると思います。
補足 金融機関における状況
日本では平成9年度から、既に銀行や証券会社においてトレーディング目的等の取引に対し時価会計が導入されております。
金融関連法案の1つである「金融機関等の経営の健全性確保のための関係法律の整備に関する法律」が施行(1997年4月1日施行)され、金融機関がトレーディング取引(市場価格の変化等に着目した短期売買目的の取引)に時価評価に基づいた会計処理(時価主義会計)を導入することが可能となりました。
この法改正に伴って、金融機関(銀行、信用金庫連合会、農林中央金庫、商工組合中央金庫および証券会社)は、トレーディング勘定をその他の勘定と区別して経理(特定取引勘定)できることになるとともに、商法の規定にかかわらずトレーディング取引を時価で評価することができるようになりました。
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