退職給付会計基準について

0.はじめに

[目的]

平成13年3月期より、「退職給付会計基準」が導入されます。この「退職給付会計」は、その複雑さから未だ理解が広まるに至っていないようです。

このコラムは、この退職給付会計の「核」となる部分を集中して説明し、「何を」「どのように」計算し、「どんな問題点があるか」「どんな準備をすべきか」をご理解頂けることを目標としています。

急いでまとめましたので、内容的に幾分粗いものがありますがあしからずご了承下さい。詳しいご質問は、事務所までメールにてお寄せ下さい。

[今回説明する項目の要約]

  • 退職給付会計基準とは?
  • 退職給付会計基準に基づいた計算方法とは?
  • 厚生年金基金の場合の留意点とは?
  • 退職一時金及び適格退職年金の場合の留意点とは?

1.退職給付会計基準とは?

[退職給付制度にはどのようなものがあるか]

 「退職給付」と言う言葉は、労働者が退職した場合に支払を受ける全てのものを含んでいます。具体的には、以下のような給付があります。

  • 直接給付…労働協約に基づいて会社から直接支給される退職一時金等
  • 外部拠出…企業外部に、退職給付掛金の一部もしくは全額を企業が負担して外部に積立てる制度。いわゆる企業年金。たとえば、厚生年金基金制度、税制適格年金制度、中小企業退職金共済制度などがこれに当たります。

[確定給付と確定拠出]

 また、外部拠出の退職給付の中でも、以下のように2種類の外部拠出方法に分類が出来ます。先に述べた「直接給付」、「外部拠出」とともに、キーワードとして覚えておくと役立ちます。

  • 確定給付…年金給付額水準が確定しているもの。裏返せば、年金資産の運用が悪化した場合でも、確定した年金額を支給しなければならない。
    (例示)厚生年金基金制度・適格退職年金制度
  • 確定拠出…年金掛金が確定しているもの。年金資産の運用が悪化しても、それに応じた年金額の支給をすることで足りる。
    (例示)中小企業退職金共済制度・401(k)プラン(米国の制度)

[現行会計・税務実務の問題点]

 さて、現行の会計実務に基づくと、これらの退職給付に関してはどのような会計処理を行うことになるのでしょうか。

 現行の会計処理を一言で表現すれば、「期末要支給額を基準とした会計処理」であると言えます。「期末要支給額」とは、決算期末に退職給与の受給資格を持つ全従業員の退職金支給に必要な額を計算した金額です。基本的には、この金額が貸借対照表上「退職給与引当金」として計上され、その期に増加した部分は「退職給与引当金」として損益計算書上費用として扱われます。

 「支給すべき額」を貸借対照表や損益計算書に計上していますので一見問題が無いように思えます。しかし、この会計処理には以下のような問題点があると従来から指摘されてきました。

  • 企業年金制度を採用する会社が多くなったことにより、直接給付を対象とする退職給与引当金経理と、外部拠出を単純費用処理する企業年金制度との間で、会計処理の不整合が起こること
  • 確定給付型年金において、運用利回りの低下、株式市況の低迷などにより年金資産に含み損が発生していても、現行の会計実務においてはこれらの損失がオフバランスとなること

[新会計基準の要点]

 そこで、新会計基準は、以下のような点を新たに考慮しています。

  • (重要)内部留保、外部拠出を問わず、退職にかかる給付を全て同等に取扱う
    →原則として退職一時金、適格退職年金、厚生年金基金の全てが同じ計算の対象となります。
  • (重要)但し、対象となるのは「確定給付型」の「従業員退職給付」のみ
  • (重要)退職給付の認識を、現金主義でなく発生主義で行う
  • 過去勤務債務・数理計算上の差異の遅延認識を行う
    →他の項目が通常「発生時認識」であるのに対し、繰延べて徐々に認識して行くため
  • 退職給付債務は「グロス」表示でなく、年金資産を控除した「ネット」の金額、すなわち退職給付引当金として表示する

2.退職給付債務・年金資産等の計算方法

 では、実際に退職給付会計はどのような計算が必要となるか以下に説明します。ここをクリックして、説明図を表示し、これを参照しながらお読みください。

[会計処理のポイントと従来の会計処理との比較(参考)]

会計処理方法 従来の会計処理
<退職給付債務の計算>
将来の退職時に見込まれる退職給付の総額のうち、期末までに発生した額を債務として認識
退職給与引当金
<退職給付費用の計算>
各期に発生した退職給付債務の割引現在価値+利息費用→退職給付にかかる費用
退職給与引当金繰入額
<退職給付債務の計上>
退職給付債務は、年金資産とネット後貸借対照表に計上する
対応する項目無し

[退職給付債務 の計算方法]

退職給付債務の概念

(注:退職給付債務の実際の計算は非常に複雑であり、通常は年金数理士等の専門化に依頼して計算数値を得ることになります。ここでは概念のみ把握しておくだけで十分です)

 退職給付債務とは、従業員に対して支払うべき退職給付に関する債務の内、当期までに発生しているものをいいます。しかし、その「発生」をどう捉えるかにより、退職給付債務にはいくつかの種類があります。具体的には以下の通りです。

  • VBO(確定給付債務):退職金規定などにより、支払が法的に確定しているもの
  • ABO(累積給付債務):法的に確定しているものだけでなく、労働の提供を受けたもの全てに対応する退職給付債務
  • PBO(予測給付債務):ABOに加え、将来の昇給分(の現在価値)を見積ったもの

上記の3つの関係は、前述の説明図に表示してあります。今回の新会計基準は、これらの内最も大きなPBOを採用しました。このPBOは、大きく分けて

  • 要認識PBO(今期発生退職給付債務)
  • 未認識PBO(数理計算上の差異、過去勤務債務等、複数年償却等の遅延認識を行う)

から構成されています(ぞれぞれの関係は図を参照してください)。以下にそれぞれの計算概念を説明します。

要認識PBOの計算方法(従業員毎に個別に計算する必要あり)

  • 予想退職率や予想死亡率 を勘案した退職給付見込額の計算
  • この内、期末までに発生している額の計算(期間基準が原則)
  • 一定の割引率と残存勤務期間を考慮し、各予想退職時期毎に割引現在価値を計算する

未認識PBOの内訳とその処理

以下の未認識PBOは、平均残存勤務期間内の一定の年数で定額法により償却するが、定率法による償却も認められる(早期償却となる)。

以下の項目が償却される際の概念を図に示しています。図の太点線が償却された部分にあたります。これらは償却を通じて要認識PBOに変わっていきます。

  • 数理計算上の差異
    割引率や死亡率などの「基礎率」が変更された場合や、年金資産の期待運用収益と実際運用成果の差などによる
  • 過去勤務債務
    退職給付水準の改訂等により生じた退職給付債務の増減新たに制度を導入した場合も含む
  • 会計基準変更時差異
    会計基準が変更された際に発生する差異

[退職給付費用の構成・計算方法]

 退職給付費用は、以下の5つ(実質的には4つ)から構成されます。図の上では、全て太点線の部分となります。

  • 勤務費用
    退職給付見込額の内、当期首から当期末までに発生した額。要認識PBOの計算方法と同様の計算方法を用いるが、計算は「当期に発生した額」となる。
  • 利息費用
    退職給付債務に年率で割引率を掛けたもの
  • 期待運用収益
    年金資産と期待運用収益率に基づき計算した運用収益。マイナスの費用として取扱う
  • 過去勤務費用・数理計算上の差異・会計基準変更時差異の費用処理額
  • その他

[年金資産の計算方法・計算例]

 年金資産とは、年金制度に基づき退職給付に備えるために積立てられている資産をいいます。この計算により算出された金額を前述の退職給付債務から控除した残額が、貸借対照表上「退職給付引当金」となります。

  • 厚生年金基金制度の資産(年金経理に係る資産のみ)
  • 適格退職年金制度の資産
  • 以下の全ての用件を満たす資産
     −退職給付以外に流用出来ない
     −事業主やその債権者から法的に分離されている
     −詐害的行為の禁止(民法上当然)
     −事業主の他の資産と交換できない

 なお、年金資産は、期末の時価(公正価値)で評価します。また、原則として計算の基準日は決算期末尾ですが、一定の場合には期末日以前のデータを利用することも容認されています。

3.厚生年金基金の場合の留意点

[取扱い]

 厚生年金基金は加算部分と代行部分から成りますが、今回の新会計基準は代行部分も計算の対象とすることになりました。この理由は、代行部分についても結局は母体企業が負担することとなるためです。

 また、厚生年金基金の従業員負担部分は、全体の退職給付費用から控除します。

[複数事業主制度]

 総合設立に代表されるように、複数の事業主が協同して設立した厚生年金基金の場合、退職給付債務等の計算は出来ても、年金資産の計算が正しく出来ない場合があります。

 これは、基金は全体として年金資産を捉えており、一企業の持分を区分しにくくなっているからです。このような場合には、退職給付債務の比率その他合理的な基準により自社が負担する年金資産額を計算することとされています。

 しかし合理的な計算が出来ない場合は、企業の要拠出額を退職給付費用とし、掛金拠出割合等により計算した年金資産の額を注記するという開示方法も認められることになりました。

 (以下私見)このことにより、かなりの割合の企業が年金資産の合理的な計算と開示を省略をする可能性が出てきます。しかし長期的に見れば、「開示不要」のままであるとは考えにくいため、できるだけ開示できるような態勢づくりが必要だと思います。

4.退職一時金及び適格退職年金制度の場合の留意点

[退職一時金]

 退職一時金について退職給与引当金を設定している場合、社内に退職金支払のための資金を用意して居るように見えます。しかしながらこの資産は前述の年金資産の条件に合致しないため、通常は退職一時金の年金資産はゼロとして取扱います。

[適格退職年金制度]

 適格退職年金は、通常各企業毎の年金資産の計算が可能であり(注:全て確認はしていません)、厚生年金基金のような計算時の問題はおこらないようです。

5.実施時期

 実施時期は平成12年4月1日以後開始事業年度からとなっていますが、税効果会計のような早期適用は認められていません。

 また、初年度のみ「主要情報の注記」とし、会計処理そのものを平成13年4月1日開始事業年度より開始する、という方法も認められます。それだけこの会計基準の導入には困難が予想されるということでしょう。

6.その他の論点

 今回は、説明を簡略化するため、以下のような項目・論点を省略しました。

  • 簡便法を利用した退職給付債務の計算
  • 割引率の設定:「安全性の高い長期の債権利回り」現在の所3%程度が多い
  • 年金資産について信託の利用
  • 米国会計基準や国際会計基準との相違点:計算基礎率の変動に対し、コリドア(回廊)方式の不採用

<以上>